走れモミジ
太彩 文字美
モミジは激怒した。
娘がルールを破り約束の時間を超えて
スマホを触り
動画を見ていたからだ。
必ず、かの埼玉No.1教育系YouTuberを目指す
塾王を驚かせるため
全合を取ると決意している。
モミジには伴走がわからぬ。
モミジは普通の主婦である。
料理を作り、片づけをし
楽しいことには飛びついて
趣味の幅を広げている。
けれども教育に対しては、
人一倍に敏感であった。
とあるブログを見つけて
何里か離れた此のカワゴエの塾に入塾した。
モミジには犬も、猫も無い。
虫も飼っていない。
夫と、小学生の元気な娘二人と
四人暮らしだ。
この次女は、明日
ペナテストがある。
それも毎週あるのだ。
モミジは、それゆえ、
次女の音読やら
三語短文やら
漢字やらペナの範囲の学習を
毎日サポートしている。
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モミジは明日喜びたい。
娘が喜ぶ顔を見るために走るのだ。
塾王のテストを打ち破る為に
走るのだ。
走らなければならぬ。
私は落ち込まない。
子供を産んだ時からの
責任を守れ。
さらば、怠惰な自分。
知識のないモミジは、つらかった。
幾度か、立ち止まりそうになった。
えい、えい、と何度も泣き自分を
叱りながら走った。
何度も不合格を取り
困難をくぐり抜け
気が付いたころには
もう夏が近づいてきている。
